パノラマ撮影について(機材編)
記事「パノラマ撮影について(知識編)」でノーダルポイントについて書きました。ノーダルポイントを実現するためには機材が必要となります。
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パノラマ撮影に必要な機材
シングルロウパノラマではクランプ付きのスライドレール、マルチロウパノラマではクランプ付きのスライドレールと専用の雲台が必要になります。
RRSでは、シングルロウパノラマ用のスライドレール(品名Long Nodal Slide with Integral Clamp、型番MPR-CL-II)が140ドル、マルチロウパノラマ用の専用雲台(品名Fluid-Gimbal Head、型番FG-02)が1235~1465ドルです。RRSで比べるとマルチロウパノラマ用の専用雲台はかなり高価です。
マルチロウパノラマは機材を揃えるハードルが高そうなのとパノラマ撮影自体を頻繁に行うかどうか分からないので、まずはシングルロウパノラマ用のスライドレールを検討することにしました。
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パノラマ撮影の機材構成
パノラマ撮影を行っている方の機材構成をみると、自由雲台とスライドレールの間にパンニングクランプを使っている場合があります。三脚+自由雲台+パンニングクランプという構成です。三脚が水平でなくても、自由雲台のクランプで水平を出せば、その上に取り付けられているパンニングクランプも水平になります。その状態でパンニングしてもカメラの水平が保たれます。水平出しのやり易さに関してはよく分かりませんが、自由雲台とパンニングクランプを使えばレベリングベースは不要ということになります。
なお、クランプ部分が最初からパンニングクランプになっている自由雲台もあります。
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ノーダルポイント(レンズの焦点位置)を回転軸に合わせる
スライドレールを使わないと、ノーダルポイント(レンズの焦点位置)を回転軸に合わせることができません。
スライドレールを使うと、ノーダルポイント(レンズの焦点位置)を回転軸に合わせることができます。三脚+レベリングベース+自由雲台の構成では、レベリングベース、自由雲台のクランプでそれぞれ水平出しを行って自由雲台でパンニングを行います。
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パノラマ撮影で角形フィルターを使う場合の問題点
パノラマ撮影で角形フィルターを使うことを想定してみます。
角形フィルターのフィルターホルダーを取り付けるとレンズの先端部がレンズの直径より大きくなります。角形フィルターを使わない場合や円形フィルターを使う場合やレンズフードを使う場合はあまり問題にならないかもしれませんが、角形フィルターを使う場合はフィルターホルダーがスライドレールに干渉しないか考慮しなければなりません。
ハーフNDなどフィルターホルダーより下にはみ出る場合もある角形フィルターを使うことを考えると、フィルターホルダーとスライドレールの高さ方向の間隔(上図のa)より、フィルターホルダーとスライドレール先端との間隔(上図のb)の方が重要になります。
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RRSとKIRKのスライドレールの比較
RRSのスライドレールは、クランプ部分とレール部分が一体になっていて、クランプ部分とレール部分には高さの違いはなさそうです。
KIRKのスライドレールは、クランプ部分とレール部分が別パーツで構成されていて、クランプ部分の向きを変えることができます。また、クランプ部分の位置がレール部分より高くなっています。フィルターホルダーをつけた場合は、フィルターホルダーとスライドレールの高さ方向の間隔(上図のa)をより広くとることができます。
www.kirkphoto.com
スライドレールの長さは、RRSのものが7.4インチ、KIRKのものが7.5インチなのでカメラをスライドできる範囲は同等と考えてよさそうです。スライドレールからのカメラの高さを少しでもかせげるKIRKのMulti purpose rail(型番LRP-1)を購入してみました。
RRSではなくKIRKのスライドレールを選んだ理由は、
・角形フィルターを使う場合のスライドレールとの干渉をなくしたい
・スライドレールより長さの短いレンズでレンズフードを使う場合のスライドレールの干渉をなくしたい
と思ったからです。
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KIRKのスライドレール Multi purpose rail(LRP-1)
KIRKのスライドレール Multi purpose rail(LRP-1)を見ていきます。
スライドレールは、ロングプレートとクランプで構成されています。脱落防止用のストッパーピンが同梱されています。クランプの向きを変更するときに使う六角レンチとストッパーピンを取り付けるに使う六角レンチが付属しています。スライドレールの六角レンチはクランプに格納できます。長さは7.5インチとされています。
クランプのスクリューノブは、180°回転するとカメラを脱着できるクイックリリースタイプです。
付属の六角レンチを使ってクランプの向きを変更できます。
下のような向きにすると、カメラのL型プレートを使うことができます。
スライドレールをばらした状態です。クランプ側の四角の凸部をロングプレート側の四角の凹部に嵌めて、ネジで固定するようになってます。
ストッパーピンを取り付けた場合のスライドレールの底面です。
スライドレールの側部と上面には目盛りがあります。1から15までの目盛りが振ってありますがセンチメートル単位ではありません。1から15までの14単位分で約17.8cmです。1目盛り当たり1.27cmになるので1/2インチということになります。インチ単位はなじみが無いのでセンチメートル単位やミリメートル単位のほうがよかったですが、ノーダルポイントの目安にする値なので問題にはならないでしょう。
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フィルターホルダー(Wine Country Camera)はスライドレールに干渉するか?
角形フィルターのフィルターホルダーを取り付けた場合に、スライドレールとフィルターホルダーが干渉するかを懸念していました。問題となるのは、下図のaとbの間隔です。
私がよく使う機材は、
・カメラ:PENTAX K-1 markII(アップグレード版)
・レンズ:HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR
・L型プレート:KIRK BL-K1N(2019年9月現在、製造中止)
・フィルターホルダ:Wine Country Cameraの100mm Filter Holder System
です。
カメラはKIRKのL型プレートを使い、縦位置でスライドレールに取り付けます。 HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WRはズームレンズですが、広角側の24mmでレンズの長さは最小(109.5mm)になります。以下、HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WRの長さが最小になる状態にして、スライドレールとフィルターホルダーが干渉するか見ていきます。
スライドレールとフィルターホルダーの長さ方向の間隔(上図のb)は目視で1~2mmといったところでギリギリでした。スライドレールとフィルターホルダーの高さ方向(上図のa)では、フィルターホルダーの下部が1mmほどスライドレールに被っているように見えますが、レンズの長さ方向にすき間ができるためスライドレールとフィルターホルダーが干渉することはありません。
スライドレールの外側にフィルターホルダーが来るようになるので、すべてのスロットで上下の調整範囲の制限なくフィルターが使えます。
このレンズより長さの短い単焦点レンズなどで角形フィルターを使う場合はどうでしょうか?
長さが短いレンズの場合はスライドレールのクランプにかさ上げ用のクランプを追加すればいいのではないかと思いました。NDフィルターなどのフィルターホルダーより下にはみ出ないフィルターの場合はかさ上げ用のクランプ追加は有効ですが、ハーフNDは長さがあるのでフィルターホルダーより下にはみ出てスライドレールと干渉してしまうので、かさ上げ用のクランプは意味がありません。こういう場合は長さの短いスライドレールを使う必要があります。
KIRKでは長さが5.5インチの短いスライドレールがあります。Multi purpose rail LRP-2というものですが、仕様を見るとMulti purpose rail LRP-1より2インチ長さが短くなっているようです。ノーダルポイントが調整できることが大前提ですが、長さが短いレンズで角形フィルターを使う場合は、こちらのMulti purpose rail LRP-2を使うことになりそうです。
カメラを横位置にしたときの状態を見てみます。
HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WRにレンズフードを取り付けた場合、スライドレールのロングプレートからレンズフードの下部のまでの高さが11mm、スライドレールのロングプレートからクランプまでの高さが12mmです。
KIRKのスライドレールはクランプ部分が高くなっているのでロングプレートからレンズフードまでの高さに余裕があります。RRSのスライドレールだとクランプとロングプレートの高さが同じなようなので、レンズフードとロングプレートが干渉してしまうことになります。
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フィルターホルダー(Nisi)はスライドレールに干渉するか?
Wine Country Cameraのフィルターホルダーを使っている方もあまりいないと思うので、Nisiの100mm幅のフィルターホルダーV5で干渉するかどうか見てみます。なお、私が持っているV5は初期型なので、最新のホルダーとはサイズが若干変わっているかもしれません。
Nisi V5を取り付け、レンズHD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WRの長さが最小になる24mmの焦点距離にします。Nisi V5はコンパクトなので、スライドレールからフィルターホルダーまでの高さは余裕があります。
レンズの長さ方向では、スライドレールの先端部より内側にフィルターホルダーの角形フィルターを入れるスロットの位置がくるようになりました。長さがあるハーフNDなどはフィルターの下部がスライドレールに当たってしまい、フィルターの上下の調整範囲が狭くなってしまいます。
Nisi V5はフィルターを入れるスロットが3つありますが、一番外側のスロットのみスライドレールより外側の位置になり、長さがあるハーフNDなどは一番外側のスロットのみ使えることになります。
なお、Wine Country Cameraのフィルターホルダーはレンズの長さ方向にもサイズが大きいことが幸いして、すべてのスロットでスライドレールと干渉せずにフィルターが使えます。
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まとめ
今回KIRKのスライドレール Multi purpose rail(LRP-1)を購入し、角形フィルター取り付け時に問題がないかどうかなどを確認してみました。角形フィルターを使わなければ、スライドレールより短いレンズでも高さ方向で干渉しなければ問題ないと思いますが、角形フィルターを使う場合は色々と面倒なことがわかりました。角形フィルターに干渉しない長さのスライドレールを使えばいいですが、そもそもそのスライドレールでノーダルポイントを調整できるかということです。これに関してはスライドレールを手に入れて、実際にやってみないと分かりません。
ノーダルポイントを一応測ってみたのですが、焦点距離が短くなるとカメラのイメージセンサーからの距離は大きくなる傾向でした。ズームレンズの場合、焦点距離が長くなるとレンズも長くなるのでノーダルポイントもカメラのイメージセンサーから遠くなると想像していましたが実際は違っていました。そう単純なものでもなさそうです。ノーダルポイントはレンズによって違ってくると思いますし、一概には言えないのかなと思っています。
次回は、測定したノーダルポイントやパノラマ写真の合成について書こうと思います。